おじさんへ…今どうしている? この世の一年はあの世の一日だそうだ
その日、おじさんは遠足を楽しみにしている小学生のようだった。
「やっと日にちが合ったんだよ」
以前一緒の事務所で働いていた仲間と、泊りがけの宴会をしたい、と言っていたのがついに夢叶って。待ち合わせは1時なのに、待ち切れなかったのかずいぶん早めに家を出た。玄関先で見送るくうみんは、おじさんに言った。
「今日は結婚記念日なんだよ」
「そうか」
それには何も答えず、おじさんは靴を履いていた。
「明日の昼は海鮮丼を食べるから、夜は非ご飯ね」
そう言っておじさんは家を後にした。
これがおじさんと交わした最後の会話だなんてその時は知る由もなかったよ。次に見た時、おじさん、もう死んでいたんだもの。
信じられなかった。こんな不幸がくうみんを襲うなんて。こんな不幸なことの当事者に、自分がなるなんて。
そりゃ、世間ではよくある話。ご主人が若くして亡くなった人なんか身近にいくらでもいる。でも、まさか自分が…
おじさんが持って行った財布代わりの巾着は、まだ引き出しの奥深くに入っている。お金もレシートもそのままだ。買った時刻が印字されている、お弁当のレシート。600円のお弁当。これ買うときにおじさんはニコニコして選んだんだろうな。
その顔が目に浮かぶ。
もっといい弁当食べろよ!泊まる宿ももっといい旅館にしろよ!最後まで安上がりな男だな!
当時のくうみんはそんなことを思って涙に暮れていた。
照玉師によると、人間は病気や事故で死ぬんじゃなくて寿命で死ぬんだって。おじさんはそれだけの命しかもらって来られなかったんだって。
私たちはそれがわかっていたから、いつも一緒にいたんだって。
そう言えばフィットネスクラブのオバ仲間に言われたよ。
「くうみんさんの所は、短かったけど一緒にいる時間は80歳くらいで亡くなったのと同じくらいじゃない?」
そう言われてみればそうだね。仕事は家だし、別行動はあまりしなかった。
今おじさんは帰るべきところに帰るために長い旅をしているそうだ。
仏教では3年たてば天国に行くと言われているけど、20年から50年かかるという説もある。3年たてば最終目的地ではないにしても、ある一定の所に到達して、霊力が授けられるのかも知れない。そう思おう。
20年から50年、だけどこれはこの世の感覚で言うと、であって、この世でない者たちにとってはそう長くない日数なのだそうだ。
この世の一年はあの世の一日だそうだ。
だからおじさんが死んで一年たつけど、おじさんにとってはやっと一日過ぎたところだそうだ。
今頃どこまで行っただろう。
「ふう、やっと一日終わったぞ。少し休んで、また歩くか」
そんなことを言っているかも知れない。
この世の一年はあの世の一日。
天国で暮らしている人はある日神様から呼び出される。
「80日ほど、現世で修業をして来い」
「はい、わかりました」
80日の修業を命じられた人は80歳まで生きて修行をして、また天に帰っていくそうだ。
おじさんは58歳で亡くなった。だから天の神様から、58日修行をするように言われたんだろう。80年と58年じゃえらい違いだけど、80日と58日ではそんなに変わらないとも言える。
でも、おじさん、現世のくうみんにとっては長過ぎるよ。
くうみんは乳がんを患って、手術したけれど取り残しがあった。血管やリンパにも癌が入り込んでいる。
「おじさん、ごめんね。丈夫で長持ちじゃないみたい」
おじさんは、黙っていた。
誰もが先に逝くのはくうみん、そう思っていた。でもね… 先のことはわからない。だけどあんまり長生きしたくない。
癌が全部取れなかったこと、今では救いになっているんだ。
くうみんがそう言っても、おじさんは生きているときも、もちろん今も黙っている。
男ってそういうものかね。
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「やっと日にちが合ったんだよ」
以前一緒の事務所で働いていた仲間と、泊りがけの宴会をしたい、と言っていたのがついに夢叶って。待ち合わせは1時なのに、待ち切れなかったのかずいぶん早めに家を出た。玄関先で見送るくうみんは、おじさんに言った。
「今日は結婚記念日なんだよ」
「そうか」
それには何も答えず、おじさんは靴を履いていた。
「明日の昼は海鮮丼を食べるから、夜は非ご飯ね」
そう言っておじさんは家を後にした。
これがおじさんと交わした最後の会話だなんてその時は知る由もなかったよ。次に見た時、おじさん、もう死んでいたんだもの。
信じられなかった。こんな不幸がくうみんを襲うなんて。こんな不幸なことの当事者に、自分がなるなんて。
そりゃ、世間ではよくある話。ご主人が若くして亡くなった人なんか身近にいくらでもいる。でも、まさか自分が…
おじさんが持って行った財布代わりの巾着は、まだ引き出しの奥深くに入っている。お金もレシートもそのままだ。買った時刻が印字されている、お弁当のレシート。600円のお弁当。これ買うときにおじさんはニコニコして選んだんだろうな。
その顔が目に浮かぶ。
もっといい弁当食べろよ!泊まる宿ももっといい旅館にしろよ!最後まで安上がりな男だな!
当時のくうみんはそんなことを思って涙に暮れていた。
照玉師によると、人間は病気や事故で死ぬんじゃなくて寿命で死ぬんだって。おじさんはそれだけの命しかもらって来られなかったんだって。
私たちはそれがわかっていたから、いつも一緒にいたんだって。
そう言えばフィットネスクラブのオバ仲間に言われたよ。
「くうみんさんの所は、短かったけど一緒にいる時間は80歳くらいで亡くなったのと同じくらいじゃない?」
そう言われてみればそうだね。仕事は家だし、別行動はあまりしなかった。
今おじさんは帰るべきところに帰るために長い旅をしているそうだ。
仏教では3年たてば天国に行くと言われているけど、20年から50年かかるという説もある。3年たてば最終目的地ではないにしても、ある一定の所に到達して、霊力が授けられるのかも知れない。そう思おう。
20年から50年、だけどこれはこの世の感覚で言うと、であって、この世でない者たちにとってはそう長くない日数なのだそうだ。
この世の一年はあの世の一日だそうだ。
だからおじさんが死んで一年たつけど、おじさんにとってはやっと一日過ぎたところだそうだ。
今頃どこまで行っただろう。
「ふう、やっと一日終わったぞ。少し休んで、また歩くか」
そんなことを言っているかも知れない。
この世の一年はあの世の一日。
天国で暮らしている人はある日神様から呼び出される。
「80日ほど、現世で修業をして来い」
「はい、わかりました」
80日の修業を命じられた人は80歳まで生きて修行をして、また天に帰っていくそうだ。
おじさんは58歳で亡くなった。だから天の神様から、58日修行をするように言われたんだろう。80年と58年じゃえらい違いだけど、80日と58日ではそんなに変わらないとも言える。
でも、おじさん、現世のくうみんにとっては長過ぎるよ。
くうみんは乳がんを患って、手術したけれど取り残しがあった。血管やリンパにも癌が入り込んでいる。
「おじさん、ごめんね。丈夫で長持ちじゃないみたい」
おじさんは、黙っていた。
誰もが先に逝くのはくうみん、そう思っていた。でもね… 先のことはわからない。だけどあんまり長生きしたくない。
癌が全部取れなかったこと、今では救いになっているんだ。
くうみんがそう言っても、おじさんは生きているときも、もちろん今も黙っている。
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