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葬式外伝 葬式打ち合わせからお通夜まで

 伝記には正伝と外伝がある。正伝とは物事の本筋を伝えるものであり、外伝と言えば物事の裏話を言う。

 おじさんは無事家に運び込まれ、生前寝ていた布団に寝かせられた。好きな服があったらそれを着せると言うので、細身のジーパンとユニクロのボタンダウンのシャツを着せてもらった。旅行に行くとき、この格好で行くことが多かった。

「お召替えが終わりましたのでどうぞ」
 葬儀ディレクターWさんが言うので見に行った。
「何やっているのよ!」
「こんなに早く、まったく!」
 お姉さん達は泣きながら文句を言った。くうみんはひたすら泣いていたことしか覚えていない。

 打ち合わせはすぐに、おじさんのお姉さん達と一緒にWさんと女性の化粧師を交えて5人で行われた。

 初めは家宗のカトリックでしようとしたが、神父様の都合が付かず、無宗教ですることにした。プロテスタントの牧師様はたくさんいらっしゃるけど、カトリックの神父様は少ないらしい。本人も信心していた訳ではないので、これでいいと思った。

 無宗教だと、お願いした葬儀社、さくら葬祭では音楽葬にしてくれる。Wさんが尋ねた。
「音楽は故人にちなんだものを演奏します。故人の好きなものはなんでしたか?」
「酒と温泉です」

 ♪ババンババンバンバン ババンババンバンバン いい湯だな、ハハン…♪

 さ~ぁけはぁ飲めぇ飲め 飲~むぅ~なぁらぁばぁ~…

 シャレにならない。

 一瞬の沈黙の後、Wさんが再度質問してきた。
「何かかけたい言葉はありますか?」
 くうみんは泣きながら答えた。
「このバカ、です」
 お姉さん方も口をそろえて言った。
「そうよそうよ」
「…」
Wさんは困ったのではないか。

 Wさんは、そうだ、と言う顔をして尋ねた。
「それでは何か好きな音楽はありましたか?」 
 おじさんは音楽は好きだった。ラテン系やシャンソンか、くうみんはそこのところ疎いのでよく判らない。長谷川きよしが好きで、以前はよくライブを聴きに行ったものだ。
「長谷川きよしが好きでした。特に別れのサンバ」
「そうですか」
 Wさんはほっとしたような顔をして言った。音楽は葬式にふさわし曲(たとえばいい日旅立ち)をメインに好きだった曲を少しずつちりばめて演奏されるという。
 通夜ぶるまいの料理や引き出物を頼んで打ち合わせは終了した。

 お通夜は市の斎場で行われた。おじさんが若くして亡くなったからか、弔問客は一様に厳しい顔をしていた。
 内輪に、と思っていたのだがうわさを聞きつけて予想の倍くらいの人が来てくれた。嬉しく思った。しかし、通夜ぶるまいの料理が足りなくなった。皆さん、すみません。おなかすいたでしょ。今更追加注文はできないので、現役世代で亡くなった場合は料理は大目にした方がいい。  

 通夜ぶるまいの会場に、おじさんの写真アルバムを置いていたのだが、これで結構盛り上がったらしく、思い出話に花を咲かせている一団もあった。

 明日の告別式は10時から。斎場には寝泊りするところがあったので、そこにお姉さん2人と姪一人、くうみんで泊まることにする。隣はおじさんのいる葬儀会場だ。夜中に何度もおじさんの顔を見に行った。

 顔の所だけ窓が開いて、窓に触ると冷たい。ドライアイスが効いているのか。

 おじさん、明日は告別式だ。それが終わったらおじさんは焼かれて骨になっちゃうんだね。

 さびしいよう、悲しいよう。

 山奥にあるせいか、蚊が多く、電気蚊取りが欠かせない。斎場の方も判っているので部屋には電気蚊取り、その他の場所には蚊取り線香の煙が充満している。

 こぼれる涙は蚊取り線香の煙のせいか、悲しみのせいか…

 足がかゆいのは蚊に喰われたせいだ。







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テーマ : ひとりごと
ジャンル : 日記

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こんばんわ

心中察します。私のとこのおばあちゃんの葬式もそんな感じでした

こんばんわ

私の祖父母は父方は私が生まれる前にもう既に亡くなり、母方で、おばあちゃんが一人、小学生の頃、亡くなっただけで、親族のお通夜やお葬式って行ったことがないのです。

でも中学や高校で同級生だった子たちが若くして亡くなり、それに出席したことはあります。でもそんなに仲良くもなかったので、なんだか遠くのことにしか感じられませんでした。

私は好きな歌とか、好きな服とか、今のうちからノートに書いて残しておこう。。。←母はすでに私の銀行口座の暗証番号を控えておりますm(_ _)m

Re: こんばんわ

がちょー様

> 心中察します。私のとこのおばあちゃんの葬式もそんな感じでした

 がちょーさんのおばあちゃんなら、こんなに叱られなかったでしょう。
涙涙の所は同じと存じます。

Re: こんばんわ

 phiro様

> 私の祖父母は父方は私が生まれる前にもう既に亡くなり、母方で、おばあちゃんが一人、小学生の頃、亡くなっただけで、親族のお通夜やお葬式って行ったことがないのです。
>
 祖父母世代は早死にだったのですね。子供の頃の葬式は何が何だかわからなかったな。

> でも中学や高校で同級生だった子たちが若くして亡くなり、それに出席したことはあります。でもそんなに仲良くもなかったので、なんだか遠くのことにしか感じられませんでした。
>
 私は幸いに、若くして亡くなった友達と言うのはいませんが、おじさんの同級生は骨肉腫だか白血病で高校3年で亡くなったそうです。お見舞いに行ったとき、参考書が枕元にあったのが、忘れられないと。

> 私は好きな歌とか、好きな服とか、今のうちからノートに書いて残しておこう。。。←母はすでに私の銀行口座の暗証番号を控えておりますm(_ _)m

 それはいいことです。良く死ぬことは良く生きること。また、お父さんとお母さんに万一のことがあったらどうすればいいのか、考えておいた方がいいです。

お通夜を過ぎて

なんですかね。ここにきて「くうみんさんはひとりになってしまわれたんだ」という思いがこみ上げてきました。高尾山の登山が好きで、ひょういと電車で出かけちゃう行動的なご夫婦でしたね。なくなる前も、あれ?と思うほど温泉旅行に行ってらしましたね。
こうして最後に独りになった気分を知っているだけにさびしさがわかります。どうぞ心行くまで秋をお楽しみください。

Re: お通夜を過ぎて

delica様

> なんですかね。ここにきて「くうみんさんはひとりになってしまわれたんだ」という思いがこみ上げてきました。高尾山の登山が好きで、ひょういと電車で出かけちゃう行動的なご夫婦でしたね。なくなる前も、あれ?と思うほど温泉旅行に行ってらしましたね。

 そうなんですよ、おじさんは時間はかなり融通が利く仕事だったので、暇を見てあっちこっち行っていました。安くてお値打ちのツアーや宿で、一泊して帰る…月一くらいでやっていました。
 それは生まれる前におじさんは短命だと判ったので、「なら、一緒にいる時間を長くして楽しもうね」と約束したからなのだそうだ。この世に生まれたときはその記憶は消されていたけど、その通りにしたのだそうだ。

> こうして最後に独りになった気分を知っているだけにさびしさがわかります。どうぞ心行くまで秋をお楽しみください。

 秋もおじさんと楽しみたかった。

お通夜までは…

喪主を務めざるを得なかった人には、痛い程身につまされる内容です。

身内の葬儀は何回か経験していましたが、一昨年初めて喪主になりました。
早朝に病院から葬祭場に亡骸が移されました。葬祭場の担当者とバタバタと打ち合わせが進み、とにかく目まぐるし場面が変わりました。親戚も集まって来てくれ、言葉はおかしいかもしれないのですが、とても賑やか。悲しんでいる暇などありませんでした。

気がつくともう夕方。朝から何も食べていません。葬祭場にはデリバリーの案内まであり、ちょっと奮発してお寿司を近しい親戚と食べて一息。

その親戚も帰り、一人になると…
ただただ呆然と亡骸を見つめながら、しばらく過ごしました。

お通夜が翌日なので、亡骸と同じ部屋で一晩過ごすことになりました。それがなによりの良い思い出になりました。

翌日以降は、段取りに沿って流れていくだけ。あっと言う間に終わっていました。

くうみんさんのお話しは本当に身につまされました。

Re: お通夜までは…

 小倉あん様

> 喪主を務めざるを得なかった人には、痛い程身につまされる内容です。
>
> 身内の葬儀は何回か経験していましたが、一昨年初めて喪主になりました。
> 早朝に病院から葬祭場に亡骸が移されました。葬祭場の担当者とバタバタと打ち合わせが進み、とにかく目まぐるし場面が変わりました。親戚も集まって来てくれ、言葉はおかしいかもしれないのですが、とても賑やか。悲しんでいる暇などありませんでした。
>
 そうですか、私は実父の喪主も務め、今回は2回目でした。でも、実父の時は直喪(焼くだけ)だったから、今回が初めてのようなもの。
 忙しいですよね、人がなくなるということは。

> 気がつくともう夕方。朝から何も食べていません。葬祭場にはデリバリーの案内まであり、ちょっと奮発してお寿司を近しい親戚と食べて一息。
>
> その親戚も帰り、一人になると…
> ただただ呆然と亡骸を見つめながら、しばらく過ごしました。
>
> お通夜が翌日なので、亡骸と同じ部屋で一晩過ごすことになりました。それがなによりの良い思い出になりました。
>
> 翌日以降は、段取りに沿って流れていくだけ。あっと言う間に終わっていました。
>
> くうみんさんのお話しは本当に身につまされました。

 愛する人と最後の時を過ごすのは、だれにも邪魔されずに、二人きりでいたい。小倉あん様の場合は連れ合いさんではなかったと思いますが、どのように思ったのでしょうか?

感謝の気持ち

亡くなったのは母親です。

「母と二人で枕を並べて眠るのは何年振りだろう?」
「若い頃は心配ばかりかけてしまったなぁ」
「もっと親孝行できなかったのかなぁ」

なんていろいろ考えながら、いつの間にか眠っていました。

母は穏やかな人でしたし、十分長寿でしたから、出来の悪い息子としては感謝の気持ちでいっぱいでした。

Re: 感謝の気持ち

 小倉あん様

> 亡くなったのは母親です。
>
 そうでしたか。

> 「母と二人で枕を並べて眠るのは何年振りだろう?」
> 「若い頃は心配ばかりかけてしまったなぁ」
> 「もっと親孝行できなかったのかなぁ」
>
> なんていろいろ考えながら、いつの間にか眠っていました。
>
> 母は穏やかな人でしたし、十分長寿でしたから、出来の悪い息子としては感謝の気持ちでいっぱいでした。

 長寿で逝ったなら仕方ないとも思えますね。ただ、自分の愛する人がいなくなるのは悲しいものです。他人のご遺体はなんだか怖いものですが、愛する人の遺体はそうではありません。
 生き返ればいいのにと思ったり、もうすぐなくなってしまうと思うと悲しくなったり。
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 病んだ乳を抱えて今を生きる。また走り始めた。涙を流しながら。

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