バカバカくうみん
子供の頃、くうみんは両親からすごいバカだと思われていた。幼稚園くらいの時は、ボーっとしていたから、そして小学校に入るようになると、「算数ができないから」。
今考えれば、女の子と言うのは数字に弱いもの。だから、算数ができないからと言って特にバカだと言う訳ではないと思う。
2つ下の妹が小学校に入学すると、結構成績が良く、特に算数は割とできたので、「バカバカくうみん」に拍車がかかった。
ただ一つ妹よりくうみんの方が勝っていたのは作文だった。いつも「上手な作文」として先生に読み上げられた。しかし、両親にとって作文が上手と言うのは「評価に値せず」なのだった。
と言うのも両親ともにそっち方面の才能があって、新聞や雑誌に投稿していい評価を得ると言うのは普通のことだった。
作文が上手と言うことは、日本人が日本語を話せるのと同じくらい当然のことなので、別に褒めるようなことではなかったのだ。
それに対し、作文が下手と言うのは、外国人が日本語を話せないと言うのと同じようなものだ。だから妹が作文を書くのが下手でも、けなされることはなかった。数字に強ければそれが「頭のいい子」だったのだ。
「くうみんは算数ができないんだよ」
近所のおばさんに母がため息交じりに言う。
「1たす1はできても、12たす18とか言うともうわからないんだよ」
その後ろでまだ幼い妹が言う。
「12たす18は30だよね~」
そのまた後ろでくうみんはヘラヘラ笑って心の中でつぶやいた。
それくらい、判るわい。
中学3年になると近所のおばさんから言われた。
「くうみんちゃん、中学を出たら高校くらいは行きなさいよ。中学卒業だけじゃ大した就職先はないからね」
今時何を言っているんだろう。その時はそう思ったが、そのオバサンはきっと、本当に私を心配していたに違いない。
大学生の頃、夏休みに百貨店でバイトをしたことがあった。繁忙期なので9時ごろまで残業。疲れた顔で電車を待っていると、男の声で呼び止められた。
「もしもし、くうみんちゃん?」
そこには小さい頃近所に住んでいた2、3歳年上のカッちゃんがいた。カッちゃんは乱暴者で「あの子と遊んではいけない」といつもお母さんから言われていた。
「あ、カッちゃん」
しばらく立ち話をした。カッちゃんは今は会社勤めをしているそうだ。
「くうみんちゃんはどうしているの?」
「今はバイトの帰り」
「バイトしているの?ダメだよ、ちゃんと正社員で就職しなきゃ」
「うん、でも今大学行っているから」
カッちゃんはそんなはずはない、と言う顔をして言った。
「バイトしているんだろ!大学なんて行っていないんだろ!」
「ううん、大学行ってる」
「今、バイトだろう?!バイトしているんだろう?!大学じゃないだろ!」
あまりにも強く言うので、面倒くさくなって言った。
「うん、バイト。大学行ってない」
カッちゃんはうんうんと頷いて言った。
「ちゃんと就職して両親を安心させろよ」
「うん」
その後、妹や弟も進学したけれど、くうみんとはどんぐりの背比べのランクの学校で、そんなに能力の差があるとは思えなかった。
つい最近、母に聞いた。
「私は、妹や弟と比べて、今思うとそんなにバカじゃないと思う。そんなにバカに見えたの?」
母は若干すまなそうな顔で言った。
「すごいバカに見えた」
「…」
今はこのブログ、おじさんの親戚中では人気者だ。
「くうみんさん、うまいなあ、プッ」
うまいと言ってくれるのはうれしい。
そして今は、何より逃げ足が速いので、得をしている。
「くうみんさんなんか、スポーツ万能だろ?水泳はどうなの?」
「いや~、水泳はあまり得意じゃないです」
くうみんは泳げない。
「くうみんさんの得意じゃないって言うのは我々とはレベルが違うんだろうなあ」
確かに成績はそんなに良くなかったけれど、両親だけでなく、近所の人にまでなぜ、こんなに頭悪く思われていたのか不思議だ。永遠の謎だ。
もしかしてちょっと変わったところのある子どもで、今なら病名のつく、ナントカ障害とかがあったのかも知れない。
だったら今でもナントカ障害持ちなんだろうなあ。
気にしてないけど。
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今考えれば、女の子と言うのは数字に弱いもの。だから、算数ができないからと言って特にバカだと言う訳ではないと思う。
2つ下の妹が小学校に入学すると、結構成績が良く、特に算数は割とできたので、「バカバカくうみん」に拍車がかかった。
ただ一つ妹よりくうみんの方が勝っていたのは作文だった。いつも「上手な作文」として先生に読み上げられた。しかし、両親にとって作文が上手と言うのは「評価に値せず」なのだった。
と言うのも両親ともにそっち方面の才能があって、新聞や雑誌に投稿していい評価を得ると言うのは普通のことだった。
作文が上手と言うことは、日本人が日本語を話せるのと同じくらい当然のことなので、別に褒めるようなことではなかったのだ。
それに対し、作文が下手と言うのは、外国人が日本語を話せないと言うのと同じようなものだ。だから妹が作文を書くのが下手でも、けなされることはなかった。数字に強ければそれが「頭のいい子」だったのだ。
「くうみんは算数ができないんだよ」
近所のおばさんに母がため息交じりに言う。
「1たす1はできても、12たす18とか言うともうわからないんだよ」
その後ろでまだ幼い妹が言う。
「12たす18は30だよね~」
そのまた後ろでくうみんはヘラヘラ笑って心の中でつぶやいた。
それくらい、判るわい。
中学3年になると近所のおばさんから言われた。
「くうみんちゃん、中学を出たら高校くらいは行きなさいよ。中学卒業だけじゃ大した就職先はないからね」
今時何を言っているんだろう。その時はそう思ったが、そのオバサンはきっと、本当に私を心配していたに違いない。
大学生の頃、夏休みに百貨店でバイトをしたことがあった。繁忙期なので9時ごろまで残業。疲れた顔で電車を待っていると、男の声で呼び止められた。
「もしもし、くうみんちゃん?」
そこには小さい頃近所に住んでいた2、3歳年上のカッちゃんがいた。カッちゃんは乱暴者で「あの子と遊んではいけない」といつもお母さんから言われていた。
「あ、カッちゃん」
しばらく立ち話をした。カッちゃんは今は会社勤めをしているそうだ。
「くうみんちゃんはどうしているの?」
「今はバイトの帰り」
「バイトしているの?ダメだよ、ちゃんと正社員で就職しなきゃ」
「うん、でも今大学行っているから」
カッちゃんはそんなはずはない、と言う顔をして言った。
「バイトしているんだろ!大学なんて行っていないんだろ!」
「ううん、大学行ってる」
「今、バイトだろう?!バイトしているんだろう?!大学じゃないだろ!」
あまりにも強く言うので、面倒くさくなって言った。
「うん、バイト。大学行ってない」
カッちゃんはうんうんと頷いて言った。
「ちゃんと就職して両親を安心させろよ」
「うん」
その後、妹や弟も進学したけれど、くうみんとはどんぐりの背比べのランクの学校で、そんなに能力の差があるとは思えなかった。
つい最近、母に聞いた。
「私は、妹や弟と比べて、今思うとそんなにバカじゃないと思う。そんなにバカに見えたの?」
母は若干すまなそうな顔で言った。
「すごいバカに見えた」
「…」
今はこのブログ、おじさんの親戚中では人気者だ。
「くうみんさん、うまいなあ、プッ」
うまいと言ってくれるのはうれしい。
そして今は、何より逃げ足が速いので、得をしている。
「くうみんさんなんか、スポーツ万能だろ?水泳はどうなの?」
「いや~、水泳はあまり得意じゃないです」
くうみんは泳げない。
「くうみんさんの得意じゃないって言うのは我々とはレベルが違うんだろうなあ」
確かに成績はそんなに良くなかったけれど、両親だけでなく、近所の人にまでなぜ、こんなに頭悪く思われていたのか不思議だ。永遠の謎だ。
もしかしてちょっと変わったところのある子どもで、今なら病名のつく、ナントカ障害とかがあったのかも知れない。
だったら今でもナントカ障害持ちなんだろうなあ。
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