ああ、お義父様! おみ足、お持ちしますわよ!
一番熱心なクリスチャンの一番下のおじさんが間に合わなかったら大変、兄さんが地獄に落ちる、と早々と神父さんを呼んで神様のお許しを得たという話はだいぶ経ってから聞きました。
どんなものか見てみたいと思っていたのですがそういう俗な人間の入る隙はないようです。
許しを得た後、お義父さんは一言、
「ありがとう」
と言ったそうです。それから幾日も経たないうちに意識がなくなりました。点滴を腕につけて安らかな顔で寝ています。
胃ろうにしてはどうかと勧められました。主人の二人のお姉さんはどうしようと迷っています。病院によっては胃ろうにしないと面倒を見切れない、と、暗に強制するような所もあると聞きましが、ここはそんなことはありません。
「おじさん、点滴だと普通は2、3ヶ月くらいしかもたないらしいよ。胃ろうだと数年生き延びるんだって」
「数年…それは困るな」
聞いている人からすれば悪魔の夫婦のように聞こえるでしょう。しかし、自分なら意識のないまま生かされ続けるのは真っ平なのです。意識があったとしても、食べる楽しみと言う人間の最後の楽しみがなくなっては何の楽しみがあるでしょう。
普通はお姉さん達のようにもっと悩むのかもしれません。でも、くうみんはさんざん、自分の死も考えたし、実の父も苦しまないように、と言う希望で見送りました。
主人はお姉さん達に言いました。
「延命したとしても元通り回復と言うのは考えられない。胃ろうはしない。今後治療はしないことにする」
お姉さん達も自分達だけでは決めかねていたようです。治療はしないなんて冷たいのではないか?かといって、植物状態で?
でも、主人がくうみん父の話をすると、それで納得してくれたようです。
一番下の叔父さんは治療をしないと言う話を聞いて、電話口で声を上げて泣いたそうです。
それからお義父さんは、昏々と眠り続けます。
お見舞いの帰り道、二人で話します。
「いつまで寝ているんだろう」
「おじさん、これが本当の往生際が悪いってのだね!あははっ」
「なんてことを言うんだ、お前は!」
「あっ、ごめ~ん」
冗談が過ぎたかな、と思ってしゅん、としていると、向こうから知り合いが歩いてきます。近所に住んでいる川田さんです。
「おとうさんの具合はどうですか?」
「いや~、往生際が悪くて」
「…」
意識がなくなって3ヶ月程経ったある日、病院からおとうさんの容態が悪くなった、と連絡がありました。駆けつけたときはくうみん父のときと同じようにもう亡くなっていました。
お姉さん達は泣いています。主人は葬儀屋さんを呼びました。程なく葬儀屋さんが来て、ストレッチャーにお義父さんを乗せようとします。皆病室を出て行きます。
狭い個室の一番奥にいたくうみんは出ることができなくてそこにいました。
葬儀屋さんが言います。
「この年代の方にしては背が高いですね」
「はい、174センチだそうです」
「すみませんが奥さん、足、持ってもらえますか?」
「えっ」
遺体をもつのはこの歳で初めてのこと。お姉さんじゃなくて、あっしが持つんですかい?
遺体はまだ柔らかく暖かく言われるまま、足を持ってストレッチャーに乗せました。
(そう言えば、お義父さん、水虫だって言ってたけど、うつるかな?)
またしても不届きな考えが頭をよぎります。
お義父さんはそのまま葬儀屋さんの車に乗って、「宿泊所」に、行きました。
クリックいただけたら幸いです。

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どんなものか見てみたいと思っていたのですがそういう俗な人間の入る隙はないようです。
許しを得た後、お義父さんは一言、
「ありがとう」
と言ったそうです。それから幾日も経たないうちに意識がなくなりました。点滴を腕につけて安らかな顔で寝ています。
胃ろうにしてはどうかと勧められました。主人の二人のお姉さんはどうしようと迷っています。病院によっては胃ろうにしないと面倒を見切れない、と、暗に強制するような所もあると聞きましが、ここはそんなことはありません。
「おじさん、点滴だと普通は2、3ヶ月くらいしかもたないらしいよ。胃ろうだと数年生き延びるんだって」
「数年…それは困るな」
聞いている人からすれば悪魔の夫婦のように聞こえるでしょう。しかし、自分なら意識のないまま生かされ続けるのは真っ平なのです。意識があったとしても、食べる楽しみと言う人間の最後の楽しみがなくなっては何の楽しみがあるでしょう。
普通はお姉さん達のようにもっと悩むのかもしれません。でも、くうみんはさんざん、自分の死も考えたし、実の父も苦しまないように、と言う希望で見送りました。
主人はお姉さん達に言いました。
「延命したとしても元通り回復と言うのは考えられない。胃ろうはしない。今後治療はしないことにする」
お姉さん達も自分達だけでは決めかねていたようです。治療はしないなんて冷たいのではないか?かといって、植物状態で?
でも、主人がくうみん父の話をすると、それで納得してくれたようです。
一番下の叔父さんは治療をしないと言う話を聞いて、電話口で声を上げて泣いたそうです。
それからお義父さんは、昏々と眠り続けます。
お見舞いの帰り道、二人で話します。
「いつまで寝ているんだろう」
「おじさん、これが本当の往生際が悪いってのだね!あははっ」
「なんてことを言うんだ、お前は!」
「あっ、ごめ~ん」
冗談が過ぎたかな、と思ってしゅん、としていると、向こうから知り合いが歩いてきます。近所に住んでいる川田さんです。
「おとうさんの具合はどうですか?」
「いや~、往生際が悪くて」
「…」
意識がなくなって3ヶ月程経ったある日、病院からおとうさんの容態が悪くなった、と連絡がありました。駆けつけたときはくうみん父のときと同じようにもう亡くなっていました。
お姉さん達は泣いています。主人は葬儀屋さんを呼びました。程なく葬儀屋さんが来て、ストレッチャーにお義父さんを乗せようとします。皆病室を出て行きます。
狭い個室の一番奥にいたくうみんは出ることができなくてそこにいました。
葬儀屋さんが言います。
「この年代の方にしては背が高いですね」
「はい、174センチだそうです」
「すみませんが奥さん、足、持ってもらえますか?」
「えっ」
遺体をもつのはこの歳で初めてのこと。お姉さんじゃなくて、あっしが持つんですかい?
遺体はまだ柔らかく暖かく言われるまま、足を持ってストレッチャーに乗せました。
(そう言えば、お義父さん、水虫だって言ってたけど、うつるかな?)
またしても不届きな考えが頭をよぎります。
お義父さんはそのまま葬儀屋さんの車に乗って、「宿泊所」に、行きました。
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