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やっぱり癌だった 登場人物は以後すべて仮名です

 次の診察には主人と一緒に行きました。
「今日は無罪放免の日だから、すし屋に行こう」
主人は言いました。
「そ、そうだね」
 そう、きっと先生は
「いや~、心配かけましたが良性でした」
そう言ってくれるに違いない。
 待合室で待っていると呼び出しがかかりました。診察室に主人と入りました。椅子を勧められて腰掛けると、先生はおもむろに言いました。
「悪性です」
 なんとなく覚悟していたのでああ、やっぱり…と思いました。引きつるような笑いを浮かべた先生は大丈夫かな、と言うように私の顔を覗き込みます。
「これから、あなたの主治医は角南先生になります」
 今までいろいろな先生に持ち回りで診察してもらっていたのですが癌確定と言うことで主治医が決められたようです。
 待合室で待つように言われたので待っていると看護師さんが来て次の診察日に何をするか説明してくれました。そして、
「頑張ってください」
と言うのです。私は頑張らなくてはいけない病気になったのか…
 主人といっしょに電車に乗り込み、話をします。
「やっぱり癌だったね」
「すし、どうする?」
「食べに行くわよ!」
 そう、嫌なことがあったとしても、食欲のなくなるような女ではないのです。今日はさすがにフィットネスクラブはお風呂だけにしました。家のお風呂はほとんど入りません。フィットネスクラブが休みの日はスーパー銭湯に行きます。いつも広いお風呂に入っていると、家の狭い風呂は入る気がしないのです。
 お風呂で汗を流して憧れのすし屋に行きます。今まで行きたいと思ってもどうも敷居が高くていけませんでした。すし屋デビューがこんな日とは…
 でも、すし屋の寿司はおいしいのです。
 冷えたビールを注文して、乾杯したあとすしを食べました。
「おいしいねえ」
そう言い合いながらいただきました。いくら叩きのめされたとしても、おいしいものはおいしい。
 自転車で家にたどり着き、着替えて飲み直しの仕度をしました。
「乾杯」
 主人と二人でビールを飲みました。飲んでいるうち、だんだん泣けてきました。ボロボロ涙が流れました。
「なぜ、私が!」
 みんなそう言う陳腐なせりふです。人目がなくなって緊張が解けたのかもしれません。これから私はどうなってしまうのか。
 癌宣告は死の宣告の次に重いのです。
「どうして私だけが!」
 このせりふをまた言うことがあるなどとはこのときは思ってもいませんでした。

 


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 病んだ乳を抱えて今を生きる。また走り始めた。涙を流しながら。

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