ヘンゼルとグレーテルじゃなくてくうみんとドクダミ 悪の道へ 完結編
高速バスに乗って東京に着くと、辺りは薄暗くなっていました。もう夕方です。
「ここ、どこだ?」
二人とも悪と言っても田舎者なので、東京と言えば渋谷か新宿しか知りません。
「ねえちゃん、ここ新宿だって!」
バスの看板には「新宿バスターミナル」と書いてありました。
「さすが文学部卒だなあ!」
くみんは小学校からさぼっていたので、字もろくすっぽ読めません。
しかし、こんな大都会を、どうやって渡って行けばいいのでしょう?知っている人もいませんし、泊まるところも判りません。
その時、後ろから声をかけられました。
「あんたたち、行くあてはあるのかい?」
振り向くと、背の高いおばさんが煙草をくわえて立っていました。
「え~っと、どこと言う当てはないんですけど…」
くうみんがしおらしく答えました。心細くてならなかったのです。
「じゃ、あたしの後について来な」
おばさんの後について地下鉄に乗ると、「高田馬場」と言う駅で降りました。途中で、おばさんに、挨拶をする目つきの悪い男たちが数人いました。
「このおばさんは偉いんだね」
くうみんとドクダミはひそひそ話をします。
「きっと、悪い人だよ」
「あたし達にも悪いことをさせてくれるんじゃないかな?」
やがてとあるマンションの一室に案内されました。
部屋の中には茶色のトイプードルがいました。おばばさんの足にまとわりつきます。
犬はしっぽをふりふり、何かをねだっているようです。
「力石、あっちへ行っといで!」
「り、力石?」
「あの子の名前さ。今までよそに預けていたんだけどね、そこで贅沢を覚えてしまって…カリカリを食べるのが嫌でハンストしてやがる。ちっ」
力石はふてくされてソファの方に行ってしまいました。
おばさんはご飯とみそ汁と、そして酢豚を出してくれました。肉はほとんど入っていません。しかし貧しい楽天村出身の二人には大変なご馳走に思えました。
くうみんが口をもぐもぐさせながら言いました。
「うんめえ!」
「おいしいね!ねえちゃん!」
どくだみも油で口の周りをテカテカさせながら答えました。
食事が終わると、おばさんは、お茶を出してくれました。
「あたしはおばばと言うの。この辺の闇社会の女ボスなのよ」
くうみんとドクダミはうれしくなりました。
「やっぱり!貫禄あるもんねえ」
「あたしらは何をすればいいの?」
「あんたらには売ってもらおうかい」
「えっ!売る?」
二人とも顔を見合わせました。売るって、体の事か!
「え~っと、私達、売り物にならない体ですから~、ねっ、ドクダミ!」
「そうそう、ねえちゃんも私もちょっと無理!」
おばばは顔をしかめて言いました。
「何言ってるんだい。あんたらじゃ商品にならないのは外見見れば十分さ。あんたらに売って欲しいのは、ヤクだよ…」
「ヤク!」
「も~。喜んで~」
ヤクの売人とはどういうものか、捕まらないためにはどうすべきかをレクチャーしてもらっていたところ、玄関のベルが鳴りました。
ぶっぶぶぶっぶ~ ぶっぶ~
「あ、あの鳴らし方は運び屋のよだきゅうだ」
体格のいいおぢさんが部屋に入ってきました。何か荒んだオーラがみなぎっています。
よだきゅうはもとは「ででんでん♪」などと言っている、気のいいおやぢでした。
しかし、パチンコ、スロット、競馬と、賭け事に夢中になり、正規の仕事では借金が返せなくなり、この世界に足を踏み入れたのでした。
「おばばさん、ブツを受け取りに来ましたぜ」
「そこにブツがある。明日の朝までに先方に着くようにね」
「判りました、親分」
「これ、今月分ね」
「いや~、いつもすんませんね~」
金を受け取る時だけは昔の商売人風の愛想の良さでした。
「ドクダミ!ここで頑張ろうね!」
「うん、さっきみたいなおいしい酢豚、また食べられるように頑張ろうね!」
肉の少ない酢豚であんなに喜んでいる…これだから貧しい土地の子は扱いやすいものだ…おばばは一人ほくそ笑むのでした。
こうして二人は悪の道をひた走って行くことになりました。
めでたしめでたし。
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「ここ、どこだ?」
二人とも悪と言っても田舎者なので、東京と言えば渋谷か新宿しか知りません。
「ねえちゃん、ここ新宿だって!」
バスの看板には「新宿バスターミナル」と書いてありました。
「さすが文学部卒だなあ!」
くみんは小学校からさぼっていたので、字もろくすっぽ読めません。
しかし、こんな大都会を、どうやって渡って行けばいいのでしょう?知っている人もいませんし、泊まるところも判りません。
その時、後ろから声をかけられました。
「あんたたち、行くあてはあるのかい?」
振り向くと、背の高いおばさんが煙草をくわえて立っていました。
「え~っと、どこと言う当てはないんですけど…」
くうみんがしおらしく答えました。心細くてならなかったのです。
「じゃ、あたしの後について来な」
おばさんの後について地下鉄に乗ると、「高田馬場」と言う駅で降りました。途中で、おばさんに、挨拶をする目つきの悪い男たちが数人いました。
「このおばさんは偉いんだね」
くうみんとドクダミはひそひそ話をします。
「きっと、悪い人だよ」
「あたし達にも悪いことをさせてくれるんじゃないかな?」
やがてとあるマンションの一室に案内されました。
部屋の中には茶色のトイプードルがいました。おばばさんの足にまとわりつきます。
犬はしっぽをふりふり、何かをねだっているようです。
「力石、あっちへ行っといで!」
「り、力石?」
「あの子の名前さ。今までよそに預けていたんだけどね、そこで贅沢を覚えてしまって…カリカリを食べるのが嫌でハンストしてやがる。ちっ」
力石はふてくされてソファの方に行ってしまいました。
おばさんはご飯とみそ汁と、そして酢豚を出してくれました。肉はほとんど入っていません。しかし貧しい楽天村出身の二人には大変なご馳走に思えました。
くうみんが口をもぐもぐさせながら言いました。
「うんめえ!」
「おいしいね!ねえちゃん!」
どくだみも油で口の周りをテカテカさせながら答えました。
食事が終わると、おばさんは、お茶を出してくれました。
「あたしはおばばと言うの。この辺の闇社会の女ボスなのよ」
くうみんとドクダミはうれしくなりました。
「やっぱり!貫禄あるもんねえ」
「あたしらは何をすればいいの?」
「あんたらには売ってもらおうかい」
「えっ!売る?」
二人とも顔を見合わせました。売るって、体の事か!
「え~っと、私達、売り物にならない体ですから~、ねっ、ドクダミ!」
「そうそう、ねえちゃんも私もちょっと無理!」
おばばは顔をしかめて言いました。
「何言ってるんだい。あんたらじゃ商品にならないのは外見見れば十分さ。あんたらに売って欲しいのは、ヤクだよ…」
「ヤク!」
「も~。喜んで~」
ヤクの売人とはどういうものか、捕まらないためにはどうすべきかをレクチャーしてもらっていたところ、玄関のベルが鳴りました。
ぶっぶぶぶっぶ~ ぶっぶ~
「あ、あの鳴らし方は運び屋のよだきゅうだ」
体格のいいおぢさんが部屋に入ってきました。何か荒んだオーラがみなぎっています。
よだきゅうはもとは「ででんでん♪」などと言っている、気のいいおやぢでした。
しかし、パチンコ、スロット、競馬と、賭け事に夢中になり、正規の仕事では借金が返せなくなり、この世界に足を踏み入れたのでした。
「おばばさん、ブツを受け取りに来ましたぜ」
「そこにブツがある。明日の朝までに先方に着くようにね」
「判りました、親分」
「これ、今月分ね」
「いや~、いつもすんませんね~」
金を受け取る時だけは昔の商売人風の愛想の良さでした。
「ドクダミ!ここで頑張ろうね!」
「うん、さっきみたいなおいしい酢豚、また食べられるように頑張ろうね!」
肉の少ない酢豚であんなに喜んでいる…これだから貧しい土地の子は扱いやすいものだ…おばばは一人ほくそ笑むのでした。
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