あなたの思いは届けたよ
弟の部屋を訪れたのは、何か思い出になるようなものはないかと思ったから。
はじめに訪れたときは、小さな汚れた筆箱と、修了証のようなものが挟まった、プラスチックのファイル。年金手帳が入っている。奥さんの家族と撮った写真と、数枚の一人娘の写真。写真は火葬のときに棺に入れた。
次に行ったのは、役所の手続きのついでだったが、もっと何かないかと思ったから。
不動産屋さんが入ったのか、あったはずのものがなくなっているのに気づいた。本当はまだ手を付けて欲しくなかったが、他人にはガラクタの山にしか見えなかったのだろう。
郵便受けの中を見ると、お知らせの封筒が2通見つかった。これも持ち帰った。
家に帰って封を開けると、2通とも生命保険会社のもので、満期まで弟が健在なら年金が出て、亡くなったときは死亡保険金が出るという。死亡時受取人は、一人娘Rちゃんの名前が書いてあった。
やっぱり子供はかわいかったんだな。そう思うと涙が出てきた。
…って、感傷に浸っている場合じゃない!これを元嫁に知らせなくては!それに年金だって、一時金が出る。
でも、連絡先は分からない。
保険会社に電話すると、向こうでも連絡先は把握していないそうだ。名前だけ書いてあっても、連絡先が分からなければどうしようもない。
まったく、何やっているんだよ。このままじゃ、保険会社の丸儲けじゃないか。
どうしようか考えあぐねて数日。持ってきたプラスチックのファイルに目が行った。これも整理しないと…そう思って中を探ってみた。母から来た公正証書遺言、私から出した封筒には、領収書やレシートが入っている。
なんだよ、バカにしやがって。
次に一枚のメモが出てきた。嫁さんと実家の連絡先が書いてあるではないか!!
しかしな、くうみんは嫁さんとうまく行っていなかった。そんなつもりではないのに、なぜかうまく行かない。
あの嫁さん、怖いよな~。実家にかけてみよう。くうみんは実家の番号に連絡しようとしたが、なぜか切れてしまう。仕方ないので、嫁さんの方にこわごわ、かけてみた。10回コールしたが出ない。
知らない番号からの電話には出ないのかな。電話は固定電話だけど、どうして出ないのかな。
そう思っていたら、くうみんの携帯が鳴った。
「電話をいただいたようなんですが…」
「H子ちゃん?!」
元嫁のH子ちゃんだ!弟が亡くなったという知らせは来たらしい。H子ちゃんは泣きながらとつとつと話し始めた。いつからか、弟との連絡ができなくなったこと。お父さんの助言により、遺産放棄したこと。
「遺産放棄しても保険金は関係ないわ。受け取れるのよ。資料を送るから、住所を教えて。いくら出るのかわからないけど、少しはRちゃんの学費の足しになると思うのよ」
彼女は弟と連絡が取れなくなったのは、弟が他の女性と別の人生を歩み始めたからと思っていたという。
「違うのよ。弟が愛していたのは、あなたとRちゃんだけよ」
必要書類と、担当者の連絡先を書いたものをすぐさま送った。
あのごみごみした部屋の中で、元嫁の連絡先のメモの入ったファイルを偶然持ち帰り、保険会社からのお知らせを偶然発見した。
故人の思いが引き寄せたとしか思えない。
別れた理由は知らない。しかし、弟は嫌いで別れた訳じゃないと言っていたし、元嫁もいまだに弟を好きでいるように思えた。
その時は許せなかったことが、10年の歳月が二人を素直にさせたのか?
難しいことは分からない。好きなら一緒にいればいいのに、と思うくうみんは単純なんだろうか?
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はじめに訪れたときは、小さな汚れた筆箱と、修了証のようなものが挟まった、プラスチックのファイル。年金手帳が入っている。奥さんの家族と撮った写真と、数枚の一人娘の写真。写真は火葬のときに棺に入れた。
次に行ったのは、役所の手続きのついでだったが、もっと何かないかと思ったから。
不動産屋さんが入ったのか、あったはずのものがなくなっているのに気づいた。本当はまだ手を付けて欲しくなかったが、他人にはガラクタの山にしか見えなかったのだろう。
郵便受けの中を見ると、お知らせの封筒が2通見つかった。これも持ち帰った。
家に帰って封を開けると、2通とも生命保険会社のもので、満期まで弟が健在なら年金が出て、亡くなったときは死亡保険金が出るという。死亡時受取人は、一人娘Rちゃんの名前が書いてあった。
やっぱり子供はかわいかったんだな。そう思うと涙が出てきた。
…って、感傷に浸っている場合じゃない!これを元嫁に知らせなくては!それに年金だって、一時金が出る。
でも、連絡先は分からない。
保険会社に電話すると、向こうでも連絡先は把握していないそうだ。名前だけ書いてあっても、連絡先が分からなければどうしようもない。
まったく、何やっているんだよ。このままじゃ、保険会社の丸儲けじゃないか。
どうしようか考えあぐねて数日。持ってきたプラスチックのファイルに目が行った。これも整理しないと…そう思って中を探ってみた。母から来た公正証書遺言、私から出した封筒には、領収書やレシートが入っている。
なんだよ、バカにしやがって。
次に一枚のメモが出てきた。嫁さんと実家の連絡先が書いてあるではないか!!
しかしな、くうみんは嫁さんとうまく行っていなかった。そんなつもりではないのに、なぜかうまく行かない。
あの嫁さん、怖いよな~。実家にかけてみよう。くうみんは実家の番号に連絡しようとしたが、なぜか切れてしまう。仕方ないので、嫁さんの方にこわごわ、かけてみた。10回コールしたが出ない。
知らない番号からの電話には出ないのかな。電話は固定電話だけど、どうして出ないのかな。
そう思っていたら、くうみんの携帯が鳴った。
「電話をいただいたようなんですが…」
「H子ちゃん?!」
元嫁のH子ちゃんだ!弟が亡くなったという知らせは来たらしい。H子ちゃんは泣きながらとつとつと話し始めた。いつからか、弟との連絡ができなくなったこと。お父さんの助言により、遺産放棄したこと。
「遺産放棄しても保険金は関係ないわ。受け取れるのよ。資料を送るから、住所を教えて。いくら出るのかわからないけど、少しはRちゃんの学費の足しになると思うのよ」
彼女は弟と連絡が取れなくなったのは、弟が他の女性と別の人生を歩み始めたからと思っていたという。
「違うのよ。弟が愛していたのは、あなたとRちゃんだけよ」
必要書類と、担当者の連絡先を書いたものをすぐさま送った。
あのごみごみした部屋の中で、元嫁の連絡先のメモの入ったファイルを偶然持ち帰り、保険会社からのお知らせを偶然発見した。
故人の思いが引き寄せたとしか思えない。
別れた理由は知らない。しかし、弟は嫌いで別れた訳じゃないと言っていたし、元嫁もいまだに弟を好きでいるように思えた。
その時は許せなかったことが、10年の歳月が二人を素直にさせたのか?
難しいことは分からない。好きなら一緒にいればいいのに、と思うくうみんは単純なんだろうか?
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