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くうみん走る! その四 つい本音が出たらしい

 候補の住居を見に行く前夜、母はくうみんの家に泊まり、朝から見学に行くことになった。
 Aサ高住とBサ高住は最寄り駅は同じだ。駅から遠いBサ高住から見にいくことにした。入り口近くには営業マンが待っているのが見えた。
「どうも、お待ちしておりました」
 担当者の蒲口優人氏だ。営業らしく、声も笑い声も大きい。しかし、営業の人というのは、お客さんの前では元気にしているけど、お客がいなくなるとがっくり肩を落とし、暗い顔になることも多い。中にはトランキライザーのお世話になる人も…以前隣に住んでいたご主人がそうだった。この人はどうか?

 蒲口氏の案内で食堂やゴミ捨て場から見ていく。そして肝心の部屋。
「こちらです」
 そこは南向きの5階の部屋。目の前には遮るものがなく、近くの景色が一望できる。
「わあ、いいわねえ」
 母はガーデニングが趣味なのだが、バルコニーもあって、これなら植物の育ちもよさそうだ。
「私、ここがいいわ!」
「私もここが一番いいと思うのよ」
 蒲口氏もうれしそうだ。
「それじゃ、早いんですが、申込用紙、お渡ししておきましょうか」
「お願いします」

 次の駅近物件は、すぐそばに建物があって、あまり日当たりも良くないのでパス。
 番外編の公団は、部屋は大いに気に入った。なのでいったんは蒲口氏に断りの連絡をしたのだが、食事の支度を自分でするのは嫌だ、ということで、やはりBサ高住に決めることにした。

「すみません、お断りしたんですが、やはりそちらに決めたいと思います」
「あ~、そうですか!良かった~」

 これですんなり決まったと思ったのだが、その夜、酔った勢いで、くうみんは母に恨みつらみを言ってしまった。
 どういう流れで、そんなことを口走ったのかわからない。本当は3人きょうだいなのに、誰も助けてくれず、孤軍奮闘せざるを得なくなったのは、誰のせいか?
 そんな思いからかも知れない。 

 翌日、母がなかなか起きて来なかった。
「朝食、もうできてるよ」
「…」

 母は黙ってくうみんの用意したトマトジュースやヨーグルトを食べ終わると、
「私、あんたの世話にはならない!あの部屋も、もういらない!」
「どうしてよ!」

 昨夜のくうみんの言った母に対する恨みつらみで、母は痛く心を傷つけられたらしい。

 母は口で攻撃するのがうまい。ボケバアさんが言うこととは到底思えない罵詈雑言の数々…何を言われたのかは、シャレにならないので割愛。しかし、ここは何とか収めなくては…

夫婦の心理カウンセラーミコリー様の言うとおりにしました。
「女性が怒りをぶつけてきたときは、とにかく話を聞くこと」

 そうしましたとも!!
「うんうん、わかった」
「そうだったんだ、気づかなかったわ」
 そして、まるで幼児に対するように、泣き叫ぶバアさんをあやした。

「もう帰る!!」
「ん~」

 乗換がわかるところまで送っていった。
「私が死んだら、遺産は全部、今の施設にくれてやる!」
「どうせあげるなら、ユニセフあたりの方がいいんじゃない?」
「お前の嫌がることを全部してやる!」
 電車に乗るのを見送って、くうみんは帰途に就いた。

 家に着くとおじさんの遺影に向かった。
「おじさん…」
 おじさんは母の言ったあの罵詈雑言を聞いただろうか?私のことを軽蔑しただろうか?

 くうみんは、ハラハラと涙を流し、遺影に向かって叫んだ。
「おじさん!もう嫌だ!おっかあの面倒見るの、もう嫌だ!だって、一生懸命すればするほど、こっちを攻撃してくるんだもの!おじさんだってわかるでしょ?!」

「もう嫌だよ、おじさん!私も妹や弟と同じように手を引きたい!!」
 おじさんの遺影の前で、くうみんはひとしきり泣いた。

 それからほどなくして、電話が鳴った。母からだった。
「さっきはごめんなさい!私、やっぱりこんなところは嫌!!」

 泣きながら訴えてきた。啖呵を切って帰ったものの、たどり着いた部屋は、みすぼらしくて狭くて…今まで見てきたきれいな部屋とは大違いで、一気に嫌気がさしたんだろう。
「やっぱり引っ越したい!」
 くうみんは文句を何も言わずに答えた。
「うん、手続き進めよう…明日、書類を持ってそっちに行くから」

 さあ、このおばさんには、これからどんな試練が待っているのでしょう?!

  





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 年齢一億歳。
 
 病んだ乳を抱えて今を生きる。また走り始めた。涙を流しながら。

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