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海の思い出

 海と山ならどっちが好きかと言えば、おじさんもくうみんも山派だった。
「山の温泉はいいよな。夏でも空気が冷たくて、緑がきれいで」
 おじさんは言っていた。
「でも、食べるものは海の方がいいな」

 おじさんとはよく一泊で温泉に行った。海なら伊豆の某温泉がお気に入りだった。小さなエリアに温泉宿が何軒かある。そこの一軒によく泊まった。
 JRとのセットで一人1万数千円で行けるお値打ちの宿だ。

 でも、名前を出してブログに書いたら無断でそれをホームページに引用していた。だから今回は名前を出してあげない。

 そこの波打ち際にある露天風呂は混浴だけど、男はフルチンで女は「湯浴み着」や、バスタオルを貸してくれる。その上、女子専用浴槽が奥の方にあるという女子にうれしい露天風呂だ。
 海のすぐそばにあるその露天風呂で、おじさんと並んで湯船につかった。

 お風呂の後はビールで一杯。ほどなくして食事の時間。海の幸がたくさん並んだテーブル。アツアツのてんぷらは食べ放題で、おじさんはエビをたくさん追加注文していた。

 楽しかったねえ。おじさん。おじさんとまた行きたいよ。

 楽しい日々もあったけど、心穏やかならぬ時もあった。くうみんの癌発覚。手術後の病理診断で、大きな取り残しがあると。
 乳房全摘の再手術を勧められたが、断った。

 おじさんも付き添ったその診察から帰ると、おじさんは大真面目な顔で言った。
「お前、墓どうする?」  
「どうするって…おじさんの家の墓に入るんじゃないの?」
 くうみんは、そう言ったんだけれど。

 おじさんはいろいろ考えたらしい。遠い所にある墓よりも、よく行く海辺の温泉の方がよかろうと。
「そうだ、お前、伊豆の海に散骨しろ。そうしたらあの露天岩風呂に行くたびにお前を思い出して、手を合わせてやる」  
 おじさんは言っていたね。

 そう、先に逝くのは私だとばかり思っていたから。

 おじさんが先に逝ってしまって呆然として、骨をどうしようなんて考えられなかったよ。おじさん家の墓はあるから、お約束のようにそこに入れてしまった。
 あとになってから気が付いた。海の方が良かったかな?そうも思ったんだけど。 

 でもね、おじさんとよく行っていたあの海辺の温泉に、おじさんがいなくなってからは一度も行っていないんだよ。

 たぶん私が先に逝ったとしても、おじさんも同じだと思うよ。





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 年齢一億歳。
 
 病んだ乳を抱えて今を生きる。また走り始めた。涙を流しながら。

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