箸の上げ下ろしとタベホの時の心がけ
箸の持ち方がおかしいと指摘されたのは高校生の時だった。
夏休み、学校の行事で校舎にみんなで泊まった。友達や先生と食事をしたが、その時地理の先生に指摘された。
「お前、箸の持ち方が変だ。こうやって持つんだぞ」
と、一瞬手本を見せてくれたが、どうやって持つのかそれだけでは判らなかった。
くうみんがどうやって箸を持っていたかと言うと、鉛筆を持つようにして箸を持っていた。家で父の持ち方を見た。くうみんと同じく鉛筆を持つように持っている。母も似たようなものだ。
妹もくうみんと同じ持ち方、唯一弟は正しく箸を持っていた。弟は小さい頃、保育園代わりに近所のおばさんに面倒を見てもらっていたので、おばさんから教わったのだろう。
今ならインターネットで検索すれば正しい箸の持ち方くらいいくらでも調べられる。今日び外国人でも箸くらい持てる。しかし当時はそんなものもなかった。
「ねえ、箸の持ち方、教えて」
と友達に言っても、そんな簡単なこと、自分で見て研究しなさいよと言って取り合ってもらえなかった。
高校を卒業して、恥ずかしくて名前は言えない某大学に入学した。1年の夏休みには大磯ロングビーチでバイトをした。大磯と言うのはお金持ちが住んでいる所だが、バイトの中にひときわ目を引く上品さの女子がいた。
色は黒いものの、長い髪を後ろで束ねたその人は伊達公子に似た風貌で、プレハブ造りの社員食堂ですっと背筋を伸ばしてゆったりと食事をしている様は思わず見とれるほど美しかった。
彼女は、かつ丼でもラーメンでも上品に美しく食べた。
単なる美人なら他にいくらでもいた。しかし物腰が上品、食べ方が上品だと美貌だけではない、これがオーラと言うものなのか、彼女はひときわ輝いて見えた。
かたや箸も持てない冴えない大学の冴えない女子、くうみん。その人には嫉妬するなんてとんでもないこと。時々そっと様子をうかがっていた。
そして思った。あんなに上品でなくていいから、箸ぐらい普通に持ちたいものだ。
箸の持ち方は依然として謎のまま、時は過ぎた。
そのうち会社勤めするようになった。退職のお別れ会などで、会議室に女子社員20人ほどが集まって食事をすることが何回かあった。
みんなの箸の持ち方をはじから見ていくと、ほとんどの人が正しく持っているようだが、明らかにおかしい人が2名いた。
一人は上司に対してもいぢめをする変わり者のKさん。
もう一人は地球は自分を中心に動いていると思っているのではないかと思われる強気系マイペース、Nさん。
どちらにしても性格に問題のある人だ。一緒にされたくない。何とかしなくては。焦りながらも時は徒に過ぎて行った。
あまり男に縁のないくうみんであったが、そこは若い女子、そのうちおじさんと付き合うようになった。おじさんと食事しているときに箸の持ち方を教わった。
人にデカい顔をするのが好きなおじさんは、丁寧に教えてくれた。初めのうちは慣れなくてつい元の持ち方にしてしまう。
「王様のアイデア」と言うアイデアショップで、「しつけ箸」を見つけた。初めは子供用しかなかったのでこれを買った。
しばらくこれを使っていたが、そのうち慣れてきたので、普通の箸を使うようになった。
以前の鉛筆を持つような箸の持ち方では、もう何もつまめない。いったいどうやって食べていたのやら。
箸を持てるようになって、くうみんはうれしかった。
ある日、「王様のアイデア」で大人用しつけ箸を見かけた。そこで、箸の持てないNさんに、これをプレゼントすることを思いついた。
変わり者のKさんにこんなものを勧めたら、何を言われるか判らないので、Nさんだけに極秘で手渡した。Nさんは自分中心に地球が動いていると思っているようだが人を悪く思うようなことはない。
「これで箸を持てるようになったの。Nさんもどうかしら」
Nさんは新品のしつけ箸をまじまじと見た。
「そう。ありがとう。でも私、これでいいと思っているから。お見合いの会食はナイフとフォークを使うことにすればいいし」
受け取ってくれたので、使うのかな~、と思ったけれど会社の給湯室の棚に置きっぱなしで使った形跡はなかった。余計なことをしたけれど、Nさんだから許してくれたのよね。
Kさんにプレゼントしなくて良かった。そんなことしたらどんな目に会うか…
やっと箸を持てるようになったくうみんはさらなる上を目指して上品な食べ方を研究すべきだとは思う。
しかし食べるときいう行為は生存のための一番本能的な行為で、うまそなものを見ると、自制するのは困難だ。
うまそなものを発見したら、周りを見て下品と思われない程度に、ささっと好物に手を伸ばす。
タベホの時は全体のメニューを確認してから、おいしそうなものからいただく。本能丸出し、卑しく食べる。
しかしながら、タベホの時に一つだけ心がけていることがある。
取った料理は残さない。絶対に完食する。
これだけは。

箱根のホテル明日香。リーズナブルでタベホの上ノミホ。食事は味付けが若干濃いめだが、おいしい。

この後おかわりを2回ほど。オホホ。

カワセミは後姿の方がきれいなんだが、後ろを向いてくれなかった
ランキングに参加しています。おもしろいと思ったらクリックしてください。

にほんブログ村
夏休み、学校の行事で校舎にみんなで泊まった。友達や先生と食事をしたが、その時地理の先生に指摘された。
「お前、箸の持ち方が変だ。こうやって持つんだぞ」
と、一瞬手本を見せてくれたが、どうやって持つのかそれだけでは判らなかった。
くうみんがどうやって箸を持っていたかと言うと、鉛筆を持つようにして箸を持っていた。家で父の持ち方を見た。くうみんと同じく鉛筆を持つように持っている。母も似たようなものだ。
妹もくうみんと同じ持ち方、唯一弟は正しく箸を持っていた。弟は小さい頃、保育園代わりに近所のおばさんに面倒を見てもらっていたので、おばさんから教わったのだろう。
今ならインターネットで検索すれば正しい箸の持ち方くらいいくらでも調べられる。今日び外国人でも箸くらい持てる。しかし当時はそんなものもなかった。
「ねえ、箸の持ち方、教えて」
と友達に言っても、そんな簡単なこと、自分で見て研究しなさいよと言って取り合ってもらえなかった。
高校を卒業して、恥ずかしくて名前は言えない某大学に入学した。1年の夏休みには大磯ロングビーチでバイトをした。大磯と言うのはお金持ちが住んでいる所だが、バイトの中にひときわ目を引く上品さの女子がいた。
色は黒いものの、長い髪を後ろで束ねたその人は伊達公子に似た風貌で、プレハブ造りの社員食堂ですっと背筋を伸ばしてゆったりと食事をしている様は思わず見とれるほど美しかった。
彼女は、かつ丼でもラーメンでも上品に美しく食べた。
単なる美人なら他にいくらでもいた。しかし物腰が上品、食べ方が上品だと美貌だけではない、これがオーラと言うものなのか、彼女はひときわ輝いて見えた。
かたや箸も持てない冴えない大学の冴えない女子、くうみん。その人には嫉妬するなんてとんでもないこと。時々そっと様子をうかがっていた。
そして思った。あんなに上品でなくていいから、箸ぐらい普通に持ちたいものだ。
箸の持ち方は依然として謎のまま、時は過ぎた。
そのうち会社勤めするようになった。退職のお別れ会などで、会議室に女子社員20人ほどが集まって食事をすることが何回かあった。
みんなの箸の持ち方をはじから見ていくと、ほとんどの人が正しく持っているようだが、明らかにおかしい人が2名いた。
一人は上司に対してもいぢめをする変わり者のKさん。
もう一人は地球は自分を中心に動いていると思っているのではないかと思われる強気系マイペース、Nさん。
どちらにしても性格に問題のある人だ。一緒にされたくない。何とかしなくては。焦りながらも時は徒に過ぎて行った。
あまり男に縁のないくうみんであったが、そこは若い女子、そのうちおじさんと付き合うようになった。おじさんと食事しているときに箸の持ち方を教わった。
人にデカい顔をするのが好きなおじさんは、丁寧に教えてくれた。初めのうちは慣れなくてつい元の持ち方にしてしまう。
「王様のアイデア」と言うアイデアショップで、「しつけ箸」を見つけた。初めは子供用しかなかったのでこれを買った。
しばらくこれを使っていたが、そのうち慣れてきたので、普通の箸を使うようになった。
以前の鉛筆を持つような箸の持ち方では、もう何もつまめない。いったいどうやって食べていたのやら。
箸を持てるようになって、くうみんはうれしかった。
ある日、「王様のアイデア」で大人用しつけ箸を見かけた。そこで、箸の持てないNさんに、これをプレゼントすることを思いついた。
変わり者のKさんにこんなものを勧めたら、何を言われるか判らないので、Nさんだけに極秘で手渡した。Nさんは自分中心に地球が動いていると思っているようだが人を悪く思うようなことはない。
「これで箸を持てるようになったの。Nさんもどうかしら」
Nさんは新品のしつけ箸をまじまじと見た。
「そう。ありがとう。でも私、これでいいと思っているから。お見合いの会食はナイフとフォークを使うことにすればいいし」
受け取ってくれたので、使うのかな~、と思ったけれど会社の給湯室の棚に置きっぱなしで使った形跡はなかった。余計なことをしたけれど、Nさんだから許してくれたのよね。
Kさんにプレゼントしなくて良かった。そんなことしたらどんな目に会うか…
やっと箸を持てるようになったくうみんはさらなる上を目指して上品な食べ方を研究すべきだとは思う。
しかし食べるときいう行為は生存のための一番本能的な行為で、うまそなものを見ると、自制するのは困難だ。
うまそなものを発見したら、周りを見て下品と思われない程度に、ささっと好物に手を伸ばす。
タベホの時は全体のメニューを確認してから、おいしそうなものからいただく。本能丸出し、卑しく食べる。
しかしながら、タベホの時に一つだけ心がけていることがある。
取った料理は残さない。絶対に完食する。
これだけは。

箱根のホテル明日香。リーズナブルでタベホの上ノミホ。食事は味付けが若干濃いめだが、おいしい。

この後おかわりを2回ほど。オホホ。

カワセミは後姿の方がきれいなんだが、後ろを向いてくれなかった
ランキングに参加しています。おもしろいと思ったらクリックしてください。


にほんブログ村
スポンサーサイト