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ちょうど今頃行った伊豆長岡 父の思い出

 ちょうど今頃、今は亡き父と伊豆長岡に行ったことがある。

 くうみん父はかなり嫌な性格だった。父はくうみんを溺愛していたが、それとこれとは別なのだった。顔を合わせると嫌味ばかり言う。

 結婚してから、父の家で食事を作って一緒に食べようとした時。おかずをぐるっと見渡して、父が言った。
「お前、金貯めてるだろ?」
「えっ、まあ少しは」
「だろうな、こんなもん食べているんじゃな」
とか、一言、
「老けたな」
 あんたに言われたくない。

 そんなこんなで、十数年間会わなかったことがある。

 しかし、「もう意地を張ることもなかろう」と、十数年の歳月を経て、月に一度くらいは食卓を囲むようになった。

 くうみん母とも、おじさん両親とも旅行はするけど、くうみん父とはしたことがない。一度くらいは一緒に行こうかしら、と思いついた。

 ある日、夕食の時おじさんに言った。
「おとんとは旅行に行ったことないから、一回くらいは行こうかと思うんだけど」
「いいよ」
「お金のない人だからこっちで持ってやりたいんだけど」
「いいよ」

 と言う訳で父にどこか行きたい所はないかと尋ねると、
「伊豆長岡へ行きたい」
と言うので早速手配した。

 伊豆長岡は父の若き日の思い出の土地だそうだ。父の家は裕福な鰹節問屋で、番頭や女中がたくさん働いていたそうだ。
 父は10代半ば、当時流行っていた結核にかかった。そこで伊豆長岡に療養に行ったと言うのだ。

 しかしくうみん推測するに、食べ物を扱う店で結核はまずい、どこか適当な所に隠してしまえ、そうだ、伊豆長岡!みんなには喘息だとでも言っておけよ、てな所だと思う。

 都会から来た金持ちのぼっちゃん。青白い顔…これだけで2割方男前度が増すと言うもの。逞しいばかりでなく、こんな線の細さもモテる要因だ。かなりまんざらでもない思い出もあったらしい。
 しかし、盛者必衰、驕れるもの久しからず。家は没落し、現在に至る。

 以前、伊豆長岡でペンションを経営すると言ってきたこともあった。
「マキロン(くうみん妹のこと)にやらせる。金は、この家を売る」
 マキロンは自分の部屋の掃除もしたことがない。マキロンの部屋にはいつも干からびたコーヒーの貼りついたマグカップや、お菓子の食べ残しが散乱していた。

「自分の身の回りのこともできない人に、お客さんの世話ができる訳ないでしょ!」
「いや~、だからマキロンの面倒を見る人を雇えばいいんだよ、掃除や料理も人を雇えばいいんだよ。わしはもう決めたんじゃ。物件もいいのが見つかったんじゃ」

 話を聞いていて、頭が痛くなった。しかしこの話はマキロンが、「そんなことするか!!」と一喝したので、立ち消えになった。

 さて、小田原で落ち合った一行は、伊豆長岡へと向かった。いつもは安いお値打ちの宿だが、父も当時いくつであったか判らぬが、もう二度と行かないかも知れない、と宿は奮発した。

 くうみん父は結核で手術したので、片肺で、背中の肩甲骨のところが大きくへこんでいる。それを気にして大浴場は嫌がったのを覚えているので部屋に露天風呂のついたところを選んだ。

 余談だが、くうみんが癌で片乳になりそうだったとき、父の片肺に、何かの因縁を感じた。

 到着した伊豆長岡は父にとって昔とはかなり違う風景だったと思われる。いい所だとは思うが、温泉街と言う感じではない。

 あまり風情があるとは言えない住宅街の中に宿はあった。
「いらっしゃいませ」
 仲居さんに案内されて、今宵の部屋に荷物を下ろした。せっかくだからと、反射炉を見物に行った。
 
 父は良く寝た。食事の時以外はずっと寝ている。
「ベゴニアガーデンに行くんだけど、どうする?」
 そう声をかけると、
「わしも行く」
と起き出すのだが、とにかく寝てばかりだった。
 おじさんも
「良く寝る人だなあ」
 と言っていたが、子供の頃の思い出としても、寝ている父の姿ばかり見ていたような気がする。とにかく怠け者。

「お父さん、ご飯」
 そう言うとムクムク起きてくる。昔と同じだ。

 寝てばかりの父と一緒の旅行も終わり、来たときと同じように小田原で解散した。
「あれで楽しんでくれたのかねえ」
「さあ」
 くうみんは、おとう、変わらんなあ、と思いつつ、おじさんと帰りの電車の中で話し合った。

 家に着くと父に今帰りましたと報告しようとして電話をした。電話には出なかった。きっと寝ているに違いない。

 いつも月初、おじさんが仕事の集まりで夕食のいらない日を狙って、父の家に好物のすき焼きの支度をして、お土産に牛ヒレステーキ用肉を持って行っていた。

 旅行後、初めて一緒に食事をした。
「旅行、楽しかったよ」
「そう、寝てばかりだからつまらないのかと思った」
「そんなことはないよ」

「そうだ、伊豆長岡ペンション計画ってあったよね。お父さん、あんな住宅街でペンション経営するつもりだったの?」

 父はえへへ~、と笑った。

 現地調査も何もせずに計画していたらしい。 しようがないやっちゃ。

 


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 病んだ乳を抱えて今を生きる。また走り始めた。涙を流しながら。

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