成績の上げ方 くうみんの場合
あまりにもおバカな過去をさらけ出し、ちょっと恥ずかしくなった。
自分なりの努力はその後することになる。
このままでは進学どころか就職もできない。今のように高校生は就職難ではなかったけれど、聞いてみるとそこそこいい会社は一応筆記試験もあるようで、あまりにおバカではどこも採ってくれないだろう。
くうみんの父は貧乏だ。しかし母はそんなに貧乏ではない。どうしてかと言われれば、家庭にちょっと事情がありまして、と答える。
くうみんは母に相談した。
「何とか勉強ができるようになりたいんだけど。とりあえず英語と数学」
そう言われて反対する親はめったにいないだろう。例外はあると思うが。くうみん母も賛成してくれて、つてを頼って一人の女子大生を知人が紹介してくれた。東京女子、東女の人だ。妹も一緒にどうかと言ったが、「くうみんと一緒なんて嫌だ」と、断ってきた。
この人がいい人で、あまりのバカさ加減に呆れながらも親身になって教えてくれた。学校の先生には「お前バカか」と言われそうなことを、この人になら聞くことができた。
まず英語。
「thisと言うのはどうしてディスと言うのか。ディスなら、desuと書くのではないか」
「英語のth音は、日本語のローマ字とは違う。thと言う発音があるのだが、日本語で振り仮名を振るとしたら、ディスと書くしかないのでそう書いているだけだ。他にもそんな表記はたくさんある」
なるほど。納得。
長年の謎が解けた。数学も英語も、高校2年にもなって、中学の一番簡単な、薄い副読本を選んでもらって、勉強した。初めはバカにしていたけれど、結構難しい。
高校一年の時の数Ⅰは10段階評価の3、赤点だった。2年に進学するとき、先生が
「くうみん、お前は文系だよな。数学は数ⅡAにしろ」
なんだかバカにされたような気もした。
「先生、数Ⅱbにしたいです」
勉強ができないくせにそう言う人はたくさんいたらしく、
「それじゃ、放課後教えてやる」
と言うことで、放課後集まって数学の先生が教えてくれたが、いつの間にか誰も行かなくなった。もちろんくうみんも。
でもな、挫折した側から言えば、やってもやらなくても同じであれば、やらなくなるよね。水は低い方に流れるんだもの
でも、母のつけてくれた家庭教師のおかげで、英語は確か10段階評価の4から8、数学は数Ⅱaとは言え、3から9へと改善した。うれしかった。
そうなると勢いがつく。そのうち家庭教師の先生もやめたが、自分で勉強の仕方が判ればあとは自分でできる。
現国はちょろいもんだった。だって現国の先生は、くうみんの作文を読んで「これはすごい」と別格扱いにしてくれたんだもの。
古文漢文も好きだった。漢文は返り点がないと読むのは大変だけれど、ある場合、返り点の法則さえ判れば簡単だ。
ある時古文の先生が、
「希望者だけですけどね、更科の日記、現代語訳する気がある人はいらっしゃい。教えますから」
くうみんと古文の好きな女の子が二人だけ申し出て、文章を一つ一つ訳した。助動詞の働きも厳密に訳すのは骨が折れたが、先生も見てくれて、これが古文の成績に顕著な影響があったのは言うまでもない。
そして日本史の先生が言った。
「お前らさ、今昔物語って読んでみろ。エッチな話がいっぱいだぞ」
なに!エッチな話!スケベな話!うゎ~い、読みたい読みたい!
と言う訳で、昼休みと放課後は図書室に入り浸るくうみんであった。
鬼に娘を食われる話…あれは良かった。
今は昔、あるところに美しい娘が両親と住んでいた。ある日、立派な身なりの人が訪ねて来て言った。
「お宅の娘さんと結婚したい」
両親は相手の身分と財産に目がくらみ、結婚させることにした。
その初めての契りの夜、
「痛い、痛い」
と、娘の声が…
「初めてだから痛いのだろう」
と、両親は気にしなかった。
くうみんは気にしたぞ!何と初めてだから痛い!うゎ~い!!露骨!!
翌日娘の部屋を訪ねると、そこには娘の惨殺死体が…
男は鬼が変化したものであった。
お金に目がくらんではいけないよ。チャンチャン!
おお!なんというスケベ…
の、ような話で、大分楽しませてもらった。古語で読むと現代語訳よりもやらしい感じがするのはどうしてだろう。
漢文も、李白のは酒飲みの酔っ払い、酒場の様子が自由闊達でおもしろいぞ。
しかし、しょせんおバカな高校で成績が上がったと言うだけのことだ。くうみんはその後一年「浪の人」となり、3流大学にやっとこさ入学した。
自分でも一浪までしてこんな大学、不本意ではあったが、これが実力、やむを得ん。
母はがっくり、親戚には
「もっといい大学も受かったけれど、特待生で学費免除なのでここにした」
とうそをついていた。妹は
「ねえちゃんは青山に行った」
と、友達には言ったらしい。
母と妹、この二人は仲が悪いのだが、すっごく似ていると思う。性格が似ていると必ずしも仲がいいとは言えないようだ。
そして問題のユニークな父は、どう言ったか?
「くうみん」
「うん?」
「行くところがあって良かったなあ」
「うん」
くうみんはにっこり笑った。
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自分なりの努力はその後することになる。
このままでは進学どころか就職もできない。今のように高校生は就職難ではなかったけれど、聞いてみるとそこそこいい会社は一応筆記試験もあるようで、あまりにおバカではどこも採ってくれないだろう。
くうみんの父は貧乏だ。しかし母はそんなに貧乏ではない。どうしてかと言われれば、家庭にちょっと事情がありまして、と答える。
くうみんは母に相談した。
「何とか勉強ができるようになりたいんだけど。とりあえず英語と数学」
そう言われて反対する親はめったにいないだろう。例外はあると思うが。くうみん母も賛成してくれて、つてを頼って一人の女子大生を知人が紹介してくれた。東京女子、東女の人だ。妹も一緒にどうかと言ったが、「くうみんと一緒なんて嫌だ」と、断ってきた。
この人がいい人で、あまりのバカさ加減に呆れながらも親身になって教えてくれた。学校の先生には「お前バカか」と言われそうなことを、この人になら聞くことができた。
まず英語。
「thisと言うのはどうしてディスと言うのか。ディスなら、desuと書くのではないか」
「英語のth音は、日本語のローマ字とは違う。thと言う発音があるのだが、日本語で振り仮名を振るとしたら、ディスと書くしかないのでそう書いているだけだ。他にもそんな表記はたくさんある」
なるほど。納得。
長年の謎が解けた。数学も英語も、高校2年にもなって、中学の一番簡単な、薄い副読本を選んでもらって、勉強した。初めはバカにしていたけれど、結構難しい。
高校一年の時の数Ⅰは10段階評価の3、赤点だった。2年に進学するとき、先生が
「くうみん、お前は文系だよな。数学は数ⅡAにしろ」
なんだかバカにされたような気もした。
「先生、数Ⅱbにしたいです」
勉強ができないくせにそう言う人はたくさんいたらしく、
「それじゃ、放課後教えてやる」
と言うことで、放課後集まって数学の先生が教えてくれたが、いつの間にか誰も行かなくなった。もちろんくうみんも。
でもな、挫折した側から言えば、やってもやらなくても同じであれば、やらなくなるよね。水は低い方に流れるんだもの
でも、母のつけてくれた家庭教師のおかげで、英語は確か10段階評価の4から8、数学は数Ⅱaとは言え、3から9へと改善した。うれしかった。
そうなると勢いがつく。そのうち家庭教師の先生もやめたが、自分で勉強の仕方が判ればあとは自分でできる。
現国はちょろいもんだった。だって現国の先生は、くうみんの作文を読んで「これはすごい」と別格扱いにしてくれたんだもの。
古文漢文も好きだった。漢文は返り点がないと読むのは大変だけれど、ある場合、返り点の法則さえ判れば簡単だ。
ある時古文の先生が、
「希望者だけですけどね、更科の日記、現代語訳する気がある人はいらっしゃい。教えますから」
くうみんと古文の好きな女の子が二人だけ申し出て、文章を一つ一つ訳した。助動詞の働きも厳密に訳すのは骨が折れたが、先生も見てくれて、これが古文の成績に顕著な影響があったのは言うまでもない。
そして日本史の先生が言った。
「お前らさ、今昔物語って読んでみろ。エッチな話がいっぱいだぞ」
なに!エッチな話!スケベな話!うゎ~い、読みたい読みたい!
と言う訳で、昼休みと放課後は図書室に入り浸るくうみんであった。
鬼に娘を食われる話…あれは良かった。
今は昔、あるところに美しい娘が両親と住んでいた。ある日、立派な身なりの人が訪ねて来て言った。
「お宅の娘さんと結婚したい」
両親は相手の身分と財産に目がくらみ、結婚させることにした。
その初めての契りの夜、
「痛い、痛い」
と、娘の声が…
「初めてだから痛いのだろう」
と、両親は気にしなかった。
くうみんは気にしたぞ!何と初めてだから痛い!うゎ~い!!露骨!!
翌日娘の部屋を訪ねると、そこには娘の惨殺死体が…
男は鬼が変化したものであった。
お金に目がくらんではいけないよ。チャンチャン!
おお!なんというスケベ…
の、ような話で、大分楽しませてもらった。古語で読むと現代語訳よりもやらしい感じがするのはどうしてだろう。
漢文も、李白のは酒飲みの酔っ払い、酒場の様子が自由闊達でおもしろいぞ。
しかし、しょせんおバカな高校で成績が上がったと言うだけのことだ。くうみんはその後一年「浪の人」となり、3流大学にやっとこさ入学した。
自分でも一浪までしてこんな大学、不本意ではあったが、これが実力、やむを得ん。
母はがっくり、親戚には
「もっといい大学も受かったけれど、特待生で学費免除なのでここにした」
とうそをついていた。妹は
「ねえちゃんは青山に行った」
と、友達には言ったらしい。
母と妹、この二人は仲が悪いのだが、すっごく似ていると思う。性格が似ていると必ずしも仲がいいとは言えないようだ。
そして問題のユニークな父は、どう言ったか?
「くうみん」
「うん?」
「行くところがあって良かったなあ」
「うん」
くうみんはにっこり笑った。
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