ごまめの歯ぎしり

 電話が鳴ったので出ると、以前おじさんが顧問をしていた会社で事務をしている女性だった。
「私、憶えていらっしゃいますか?」
 シングルマザーとして、子供を養っているしっかり者の彼女だ。
「もちろんです。お久しぶりです、お元気ですか?」

 今日、行っていいですか?どうぞいらしてください、お待ちしています。

 時間通りに彼女が来た。世間話をした後に、突然彼女が切り出した。
「私、会社を辞めたんです。辞めてくれって言われて…」

 聞くと7月いっぱい働いたのに、締め日までの給料しかもらえなかったという。
「その分餞別をいただいたので、損した訳ではないんですけど…」
 彼女としては何か釈然としないものを感じたようだ。

 その社長のことはくうみんも知っている。いい人だと思っていたが、このことで見方が変わった。

 中小企業とも言えない零細企業が、労働基準法なんか守れないことくらいわかっている。10年近く勤めた彼女に対し、退職金を払う余力などない、そんなことはわかっている。

 だけど、できる限りの誠意は示せよ。

 具体的には働いた分の給料は支払う。その上でいくらかの餞別を出す。餞別の数万円を出すくらいなら、いくら零細企業でも潰れることはなかろう。

 会社を経営するということは大変なことだ。自分の家族だけでなく、社員の生活も守らなくてはいけない。会社を立ち上げるときに、そうれは覚悟していただろうに。

 くうみんは憤慨した。
「おじさんがいれば、きっと意見したと思うよ」
 彼女もうなずいた。
「おじさん先生だったら、絶対社長に言ってくれたと思います。だけど今の税理士先生は、社長の言うことを淡々と聞くだけですから」

 おじさんはウェットな男だった。義理人情に厚いところがあった。
 
 くうみんもおじさんが亡くなったときに、信頼していた人から手痛い仕打ちを受けたことがある。まさかこの人が…人間、金が絡むと鬼になる。そう思い知った。

 2時間近くも話し込んで、彼女は帰って行った。
 くうみんには何の力もない。くうみんにできるのは、ただ話を聞くことだけ。そしてひたすらごまめの歯ぎしりをするだけ。




 ごまめの歯ぎしりとは、実力のない者が、いたずらに苛立ったり悔しがったりすることのたとえ。 (故事ことわざ辞典)






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