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九州に潜入中 くうみん怒りの鉄拳

 最後の観光は霧島神宮に行くことにした。宿の人にバス停まで送ってもらってそこから霧島神宮行きのバスに乗った。
 霧島神宮に着いたが、予想と違ってこじんまりした神宮だ。伊勢神宮や出雲大社のような周りに門前町のにぎわう大きな神宮を想像していた。しかし、周りには何もなくてこの神宮をせいぜい20分ほど見学したら、することが何もなくなってしまった。

「どうしよう」そう思ってうろうろしていると、裏手にまたしても遊歩道があるのに気が付いた。往復4キロほどだ。山道だから戻ってくるまで4時間くらいかかるかも知れない。バスの時間を確認して、行くことにした。

 ここには韓国式の目印ではなく、日本の山道によく見られる赤いテープの目印があった。木が立ち並んでいるだけで花が咲いている訳でもない単調な道だ。

 1時間半ほど歩き続けたら、「高千穂河原」という所に着いた。ところどころつつじが咲いているのが見えた。でも帰りの時間が気になってあまり見物ができない。
 目の前にある高い山の山肌はピンク色だった。後で聞いたら、ミヤマキリシマと言うつつじが咲いているらしい。こんな遠いところからもピンク色に見えるなんて、そばで見たらどんなだろう。

 ここにもバスが通っているらしい。13時29分のバスに乗れば宿に早くついて風呂にもゆっくり入れるだろう。もっとここを散策したかった。でも、次のバスで行くとまた風呂がせわしくなってしまう。後ろ髪を引かれる思いだったが、来たバスに飛び乗って宿に帰った。

 フロントで
「今日は鹿の湯ですね。予約の17時15分より少し早くここに来てください」
 とお姉さんから言われたので、くうみんは部屋でくつろぎ、大浴場に行って体を洗ってから貸切の鹿の湯にゆっくり入ろうと手はずを整えた。
 ミヤマキリシマの見物を蹴ってまで貸切風呂に賭けたのだ!!ゆっくり楽しむぞ!!くうみんは風呂の期待に胸躍らせた。

 フロントには約束の時間より5分ほど前に着いたので、部屋の鍵を預けた。係のお姉さんが言った。
「まだ時間が来ていないので少しお待ちください」
 なのでソファに腰かけた。しばらく待っていると、一組の夫婦がやってきた。時計を見ると、もう15分を数分過ぎている。
「風呂を予約しているんだけど、案内してください。時間、過ぎてるでしょ?」
「はい、どうぞこちらへ」
 あとから来たその夫婦を、お姉さんが先に案内してしまった。

 くうみんはフロントにいる別のお姉さんに声をかけた。
「ちょっと!私、あの人たちより先に来て、待っているんだけど」
「は?お待ちください」

 お姉さんはカウンターの下をごそごそやって、貸切風呂の鍵を探し出した。
「こちらです、どうぞ」
「どうぞじゃないわよ!何で後から来た人を先に案内するのよ!私、ずっと待っていたのよ!」
 案内する道すがら、くうみんは文句を言った。
「お客様は15分からのご予約ですので」
「あの人たちも15分からでしょう?私の方が先に待っていたって言っているのよ!」
「申し訳ありません」
 お姉さんはたいして申し訳なさそうに言った。

 風呂に到着して湯に浸かった。体はすでに洗ったので、浸かる時間はあるが、のんびりできる気持ちではない。カッカ来てリラックスどころではない。
「文句を言ってやる!」
 くうみんはガバと湯船から出ると、急いで浴衣を着た。

 くうみんはフロントに向かった。そこに男性従業員がいた。
「支配人を呼んでください」
 くうみんは低い声で言った。男性従業員はよからぬ予感がしたらしく、俯いて支配人を呼びに行った。やがて支配人が姿を現した。

「何かありましたでしょうか?」
「何があったかではないですよ。貸切風呂のことですけど、従業員の対応がひど過ぎます。今日と昨日、貸切風呂をお願いしたのですが、時間を守ってくれたためしがありません。二回とも遅れて、しかも今日は、後から来た人を先に案内したのです。お客には時間を守れと言っておきながら、従業員が時間を守らないというのはどういうことですか?あとから来た人を優先するというのはどういうことですか?もう二度と来たくありません」

 怒鳴り散らすより、丁寧な言葉で、低い声で言った方が効果がある。怒鳴り散らすのは単なるヒステリーだと思われてしまうからだ。くうみんの声はトーンが低い。いつもはこんな声は嫌なのだが、苦情を言うときはこの声は落ち着いているように聞こえる。

「申し訳ありません」
 支配人は言った。
「貸切風呂ですが、9時半が空いていますので、もう一度チャンスをいただけないでしょうか?」
「そんな時間、もう寝ています」

 この後、食事をしたり、ホタルを見物したりした。ホタルはたくさん飛んでいてきれいだったけど、こんな気分じゃ楽しめない。あの一件で台無しだ。

 がちょ様は
「こんな場合はまんじゅうでもくれるんじゃないか?」
 と言っていたけど、なにもくれなかった。

 でも、次の日の朝食の席が、窓際のいい席になっていた。
 一人旅だと部屋や席はあまりいい場所をあてがわれないことが多い。今までの席は、窓から遠く離れた何も見えない所だったが、ここは眺めがいい。今までくうみんが座っていた席には、知らない夫婦が座っていた。昨夜はここに座っていた人たちだろうか。悪い席になってしまって、心なしか表情が暗いように見えた。

 もう帰る時間。従業員とくうみんの二人を乗せた車が走る。バス停までの車内では終始無言だった。もう二度と来てやるもんか。

 バス停についてから、くうみんは財布の中を確認した。すると重大なことに気付いた。
「千円札がない!」

 バスの車内では千円札の両替はできるが、5千円札や一万円札は両替ができないのだ。
「どうしよう?」

 そうだ!!くうみんの頭の中の豆電球が光った。

 宿の奴に持って来させよう。

 くうみんは携帯を取り出すと宿に電話をした。
「はい」
 若い女性が出た。
「そこに宿泊していたくうみんですけど、5千円札を両替して欲しいの。バス停まで来てください」
「えっ、少しお待ちください」
 電話口をふさいで上司に相談しているようだ。しばらくすると、返事が来た。
「今行きますのでお待ちください」

 バスが来るまでに来いよ!

 ほどなくして宿の人間が千円札5枚持って現れた。
「どうも」
 くうみんは不愛想に言った。

 よし!よくやった。これでまた泊まってやってもいい。

 バスに乗り、飛行機に乗って、またバスに乗って地下鉄に。懐かしい我が家にやっと着いた。

 くうみんはいい宿は名前入りで、悪い宿は名前なしで紹介することにしている。なので霧島温泉のこの宿は名前なしだ。でも、わかってしまうかな?ひょうたん型の貸し切り風呂や、鹿の湯で。

 ホタルを見せに連れて行ってくれるし、全般的にサービスは悪くないのだが、なんで一番の期待、キモであった貸し切り風呂だけがこんなになってしまったのか、思い切り反省するように。
 
 


  


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 年齢一億歳。
 
 病んだ乳を抱えて今を生きる。また走り始めた。涙を流しながら。

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